提言・アピール

安倍新政権に望む

2012.12.21update

2012年12月21日
一般社団法人 関西経済同友会
代表幹事 大 林 剛 郎
代表幹事 鳥 井 信 吾

安倍新政権には、現在の日本が戦後最大の危機ともいえる状況にあることを真摯に受け止め、これまでの政治の停滞によって失墜した日本の評価を回復するためにも、不退転の覚悟で運営にあたっていただきたい。

  1. 震災復興の加速化と防災対策東日本大震災から1年9ヶ月が過ぎた今もなお、復旧・復興が進んでいるとは言い難い。特に、民が主体の復興に比べて、官が進める復興に遅れが目立つ。復興庁を中心にして、復興施策の立案・実施を速やかに進める必要がある。福島第一原発事故については、除染の迅速な実施とともに、汚染地域からの避難者への被害補償金の早期支払い、雇用確保などの生活再建支援を加速すべきである。さらに、首都圏直下型や南海トラフ連動の巨大地震に備えて、国土の強靭化を進めるとともに、緊急事態基本法の制定や危機管理庁(仮称)の設置も含めた危機管理体制を構築することが急務である。

  2. 政治と統治機構の改革
    (1)1票の格差の是正と議員定数削減最高裁判所において違憲状態と判断が下された1票の格差の是正に直ちに取り組むべきである。それに伴う「ゼロ増5減」の議員定数の削減を即刻実施するとともに、衆参両院の議員定数を抜本的に見直すべきである。
    (2)地域主権改革グローバル競争が国単位から都市・地域単位に変化している状況下では、従来の国主導による画一的な政策ではなく、地域のニーズに迅速に対応できる地域主権型社会の確立が急務である。そのためには、国の出先機関をはじめとした権限・財源を地域に移譲するとともに、防災・リスク管理の面からも地域主権型道州制への移行が不可欠である。
    (3)行政改革新政権は官僚機構への過度な依存を見直し、今度こそ政治主導で行政改革を断行するべきである。「省益あって国益なし」と言われる、現行の縦割り行政の弊害を改めるとともに、公務員総人件費削減など目に見える結果を出していただきたい。

  3. 経済
    (1)円高・デフレ対策長く続く円高・デフレは企業の体力を奪いつつあり、政府としてこのまま手を拱いていることは許されない。特にデフレについては、インフレ・ターゲットの導入を含めた実効性のある対策をとるべきである。また、円高の影響がより深刻な中小企業に対しては、中小企業金融円滑化法の来年3月の期限終了を見据えて、新たな再生支援策を打ち出していくべきである。
    (2)社会保障と税の一体改革社会保障費は少子高齢化の進展に伴い今後さらに増加が見込まれる。社会保障制度改革国民会議の議論を加速するとともに、社会保障給付費の抑制・削減も視野に入れた、社会保障制度全体の抜本的見直しが必要である。その過程では、国民が痛みを共有することが避けられず、国民への丁寧な説明によって、理解を求めることが不可欠である。不要不急の歳出の絞り込みは当然として、費用対効果の見極めや、優先順位を付けて一定の枠を超えるものは支出を見送るなど、徹底的な歳出削減に取り組むべきである。消費税引き上げへの道筋がついたことは一歩前進であるが、それがスムーズに実行されるためにも、経済成長の努力目標である名目3%、実質2%の実現に向け、早急に成長戦略を実行すべきである。
    (3)成長戦略過去にあった各省庁案寄せ集めの成長戦略ではなく、成長分野を中心とした規制改革、民間部門活性化のための研究開発・設備投資促進等の税制優遇措置、法人実効税率の引き下げ、女性や若者を中心とした労働参加率の底上げなど、地道な政策の着実な実施が求められている。また、「日本は貿易立国である」ことを明確に意志表示し、器用さ、細部にこだわる、チームワークが良いといった日本人の特性を生かせるものづくり産業、つまり電機・電子、自動車、精密機械、化学・医薬などの輸出を振興3するよう全力を傾注すべきであり、そのためにも環太平洋パートナーシップ(TPP)協定への早期参加に向けた交渉を即座に開始するべきである。

  4. 外交・安全保障国内政治が停滞している間、外交・安全保障は等閑に付され、わが国の国益は大きく損なわれた。近隣諸国による邦領の侵犯やミサイル発射など、わが国の安全保障を根本から脅かしかねない事案の発生が続いている。「自分の国は自分で守る」という自覚を持つとともに、日米同盟を基軸とした安全保障体制の再強化が急務である。そのためにも、集団的自衛権行使を可能とする憲法解釈の変更を行うべきである。近隣諸国との人的ネットワーク、信頼関係の再構築も重要である。ポピュリズムに陥ることなく、近隣諸国との友好関係を強化することこそが究極の安全保障であることを認識するべきである。

以上