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私達の取り組み
トヨタ博物館シニアキュレーター 布垣直昭氏 講演会「まわり回ってチカラになる文化 ~AI時代の超アナログの強み~」を開催
2026年3月2日
大阪・関西の文化力向上

トヨタ博物館シニアキュレーター 布垣直昭氏 講演会「まわり回ってチカラになる文化 ~AI時代の超アナログの強み~」を開催

文化・芸術の力委員会(委員長=久保行央 トヨタモビリティ新大阪 代表取締役社長)では、3月2日、トヨタ博物館 シニアキュレーター 布垣直昭氏を講師に迎え、講演会を開催。「まわり回ってチカラになる文化 ~AI時代の超アナログの強み~」をテーマにお話を伺いました。


■トヨタ博物館シニアキュレーター 布垣 直昭 氏

私はトヨタ自動車で30年以上にわたりデザインに携わり、またレクサスのブランド構築やトヨタ博物館の館長、社会貢献部長などを歴任してきた。これらの職務には、「価値を数値化しづらい一方で、多額の投資を要する」という共通点がある。経営の効率化が叫ばれる昨今、私はあえて、AI時代にこそ「超アナログ」である文化の力が企業を救うと提言したい。

トヨタのデザイン現場では、最新のデジタル機器を導入する一方で、今なお人の手で粘土を削り、形を作るクレイモデルを極めて重視している。それは視覚情報だけでなく人間の五感、特に指先が感じる数ミクロンの凹凸や、ステアリングから伝わる繊細な「味」が、デジタル技術では到底再現できない領域にあるからだ。効率のみを追求した「不完全なアナログ」はAIに淘汰されるが、職人の魂が宿る「超アナログ」は、その企業にしか出せない固有の価値、すなわち「文化」へと昇華する。

かつて、トヨタ2000GTが海外のオークションで一億円を超える価格で落札された。これは工業製品としての価値を超え、時代背景や作り手の情熱を含めた「芸術品」として世界に認められた証だ。こうしたブランドの矜持は、一朝一夕には成し得ない。トヨタでは、入社間もない若手技術者たちが1950年代のレーシングカーなどを復元するプロジェクトを行っている。ブラックボックスのない時代の車を自ら再現する過程で、彼らは先人の執念や工夫を追体験し、技術の裏側の「想い」を継承する。

AIが膨大なデータから最適解を導き出す今、顧客は購入前にAIに意見を求めるようになりつつある。しかし、最後に人の心を動かし、「これこそが欲しい」と決断させるのは、理屈抜きの美しさや、信頼に裏打ちされた物語だ。企業が生き残る鍵は、数値化できない感性の領域をどこまで研ぎ澄ませ、独自の文化として結実させられるかにある。文化への投資は無駄ではない。それはまわり回って、企業の根幹を支える最強の力となるのである。