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提言・アピール

関西再生の鍵は人材にあり
~1人のスーパースターを育てるよりも多くの人の『異能』を引き出せ~

2010.03.01update

2010年3月
社団法人関西経済連合会
大阪商工会議所
京都商工会議所
神戸商工会議所
社団法人関西経済同友会

競争力人材育成委員会

わが国は戦後の荒廃や混乱の中から力強く立ち上がり、かつてないほどの目覚しい復興と発展を遂げてきた。ものづくりを基幹産業として、ネジ一本にまで心を砕き、世代を継いで改善と改良を重ねて競争力を磨き上げてきた結果、「made in Japan」は「高品質・低価格」の代名詞として、自動車、家電、機械といったあらゆる製品で世界を席巻するまでに至った。

しかし、1990年代になるとグローバル化とともに潮目が変わる。世界各国が市場になると同時にその供給者となり得るようになったために、わが国産業は中国をはじめとする新興国から次々と挑戦を受けることとなった。さらに2008年のリーマン・ショックで世界規模の需要蒸発が起きるに至って、わが国がもはや効率や品質を追求する従来の手法だけで勝ち続けることが不可能であることが明白になったのである。

したがって今後のわが国は、これまでにない製品・サービスを次々と創り出し、新市場を創造することで競争力を維持し、高めるしか道はない。言い換えれば、品質や価格面で優れた製品・サービスを供給してきたこれまでの仕組みを超えて知恵を絞り、ビジネスを築きなおす覚悟が求められているのであり、中でもものづくりを産業の柱とし、アジア市場と正面から向き合っている関西においては、求められるべき覚悟は一層厳しいものとなるのではないだろうか。

こうした点で、新しい時代を勝ち抜くための競争力の源泉は、自らの革新のための知恵を出し、新たなビジネスを構築できる唯一の経営資源である「人」に他ならない。これまでにもマイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏やウォークマンを開発したソニーの黒木靖夫氏は、誰もが思いもしなかった製品を構想し、新ビジネスを構築したのみならず社会のありようや生活スタイルまで変えてしまった。

彼らほど突出した人材をすべての企業が得ることは難しいかもしれないが、尐なくともそうした新しい価値を創り出す力を持つ人材が、これからのどの企業にとっても欠かせないのは事実であり、そのような人材を発掘し、活かすことができるかどうかが企業の命運を左右すると言っても過言ではない。「新しい価値を創り出す」には具体的にどのような能力が必要だろうか。

独自の発想力、既存の知識や経験を融合する力、ビジネスチャンスを見出す力、多様な人材ネットワークを築く力、既存の分野や業種を超えたコーディネート力、関係者を巻き込み説得する力、チームをまとめるリーダーシップなどが考えられるが、たとえ一人の人間がこれらのすべてを持っていなくても、この中の一つにでも非常に秀でた人間がその力を顕在化させ、企業の中で活かすことができれば、大きな価値創造につながる。こうした能力を「異能」と呼ぶことにしよう。

ただ、「異能」は定量化することができないので、それを見出し、伸ばすことに難しさがある。また、企業における人材育成の時間軸が「異能」を持つ人材が求めるスピード感と合わないことや、出る杭を良しとしない組織風土が、その能力の発揮を妨げているのかもしれない。さらに、OJT、ジョブ・ローテーションといった企業の人材育成で主流となっている施策についても、必要なスキルや経験を主として長期的な視点で計画的に付与するものであるがゆえに、「異能」をすくい取ることには限界があると思われる。

そこで本提言では、こうした多くの経営者に共通する人材育成の悩み、ジレンマに対して、一定の方向性を示したいと思う。新しい価値を創り出すうえで不可欠な「異能」を発掘・活用するために、企業は何をすべきか、各企業の人材育成施策の現状分析、それと働く側の意識との対比などを踏まえながら、経営者への提言という形でまとめることとしたい。