提言・アピール

【提言】舟運を活用した新たな広域観光の実現へ

2022.05.11update

一般社団法人 関西経済同友会
広域観光委員会

 

関西経済同友会 広域観光委員会(委員長=難波正人 竹中工務店 取締役副会長)は、提言「舟運を活用した新たな広域観光の実現へ」を取り纏めました。

■概要

【課題】現況、圏域を跨いだ観光振興は連携が不十分であり、関西国際空港から京都、東京へ続く東方のゴールデンルートへ人の流れが偏っている。また、特定地域に観光客が集中するオーバーツーリズムも生じており、西方・広域への分散送客等による持続可能な観光の模索が必要である。

【資源】関西から西に目を向けると、大阪湾・瀬戸内海が広がり、阪神港(大阪港、神戸港など)などの日本を代表する港を多く有すると共に、世界的に評価の高い多島美の風景が広がっている。

【機運】大阪・関西万博やその後のIR開業を契機に、観光分野での大阪湾ベイエリアの活性化が想定され、播磨灘や和歌山エリアを含んだ大阪湾でのクルーズ事業、大阪湾発着の瀬戸内海クルーズ事業などの気運の高まりも期待される。

【提言】本提言では、関西圏西方に広がる瀬戸内海沿岸地域に着目し、関西圏と瀬戸内を結ぶために舟運を活用した新たな広域観光のあり方を検討し、その実現のために必要な方向性として「大阪湾・瀬戸内におけるクルーズ事業の拡大」「港周辺の整備とまちづくりの促進」「舟運プラットフォームの構築」などを提言する。

■提言

【大阪湾・瀬戸内におけるクルーズ事業の拡大】

提言① 大阪湾と淡路島をつなぐ舟運ネットワークの構築
・大阪湾は、淡路島を中心に生活航路としての海上輸送が盛況であったが、明石海峡大橋の開通等に伴い、海洋文化が衰退してしまった。今後は、新たに観光航路としてクルーズ事業を展開していくことが考えられる。

・その第一歩として、夢洲と関西国際空港、神戸港、淡路島などの交通結節点と観光拠点を結ぶ周遊ルートが考えられる。その際、鉄道やバスなど、陸上交通との連携が不可欠である。

・水素船やEV船などを積極的に活用し、国際的な観光エリアとして必要不可欠なサステナビリティへの配慮を国内外にアピールする必要がある

提言② 安全面や運用ルールを考慮したクルーズ事業の拡大
・大阪湾内に加え、大阪市内さらには京都へつながるリバークルーズ、播磨灘や小豆島まで範囲を拡大したクルーズ事業の展開を目指す。

・例えば、阪神港として一開港化されていることを踏まえると、多様なサービスを提供する舟運事業者の参入を促すために、『港内を航行する船舶は、船員法が適用除外となる(詳細は提言本文参照)』ことを活用することが考えられる。一方で、安全面の確保や運用ルールについて、丁寧な検証が必要である。

・航行区域(詳細は提言本文参照)については、『運航限界を定めた上で平水区域相当と扱う』などのアイデアが考えられるが、安全上の課題や効果を十分に検証し、観光客の安全を確保した上での規制緩和に関する議論を進める。

 

【港周辺の整備とまちづくりの促進】

提言③ クルーズ事業推進と両輪となる港周辺の観光整備

・クルーズ事業の拡大と併せて寄港地となる港周辺の観光整備が不可欠であり、地域特有の産業を観光資源として活用した施設が必要である。

・ベイエリア全体のまちづくりについては、用途転換など時代に即した開発やカーボンニュートラルポート(CNP)が目指されるべきである。また、港と駅の接続強化を図る必要がある。

・ユニバーサルシティポートや中央卸売市場前港など川と海を結ぶ港は、拠点性を高め、ランドサービスの充実を図ることが重要である。

・観光整備に併せて、各港を結ぶ観光プログラムも必要である。

提言④ 地域特性を活かした新たな観光コンテンツの掘り起こし

・クルーズのアクティビティを豊かにするために、既存の観光地だけでなく、ベイエリア沿いの新たな観光コンテンツの掘り起こしが重要になってくる。特に、船でしか体験できない風景・船でしか行くことのできない場所の創り込みが重要である。その際、各地域との連携強化を図る必要がある。

・大阪湾では、大阪や神戸の都市景観、関空や神戸空港などの都市インフラ、堺や尼崎の工場夜景、アマルフィのような美しい海岸線をもつ雑賀崎や戦争遺跡が残る友ヶ島など、様々な魅力が溢れており、これら資源を活かすことが期待できる。


【舟運プラットフォームの構築】

提言⑤ 関係者がリスクをシェアしながら事業参画できるスキーム構築

・現在は、各事業者が船やサービスなどを個別に所有・運営しており、事業継続や新たな事業展開の難しさが課題となっている。

・今後、船やランドサービス、オペレーションなどの共通化を図り、多くの関係者がリスクをシェアしながら事業参画できるスキームの構築が必要である。特に、交通事業者や漁業協同組合との連携が不可欠となる。

・そのために、協議会やワーキングを発足させ、舟運活用に限らず、交通連携やランドサービス開発、エネルギー活用などの検討を進めていく必要がある。


提言⑥ 地域観光情報ネットワークの推進

・現況は、観光客が自ら各舟運事業者のwebサイトを検索し、行程を組み立てている状況であり、観光の利便性が課題となっている。

・まずは、舟運事業者だけでなく、鉄道やバスなどの交通事業者を含む観光ポータルサイトを立ち上げ、情報の共有・連携が必要である。

・最終的には、関西のあらゆる観光関連情報が集約されたプラットフォームの立ち上げを目指す。旅行者個人は、時間や趣味、嗜好などの要望を入力することで、プラットフォーム上から適切なツアーの選択・予約・決済が可能となり、利便性の向上とともに幅広い観光客の誘致を実現していく。

以上

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