提言・アピール

安倍政権に期待する

2013.07.30update

平成25年7月30日
一般社団法人 関西経済同友会
代表幹事 鳥井 信吾
代表幹事 加藤 貞男

今回の参議院議員通常選挙で自由民主党が大勝し、ようやく安定政権が誕生 した。政争に明け暮れた衆参のねじれが解消されたことにより、中長期の視点 で、政策実現に挑む体制が整ったことは、大いに歓迎したい。先の国会で成立 しなかった重要法案の早期可決はもちろん、経済成長と財政再建の両方の実現 に向け、安倍政権は、ポピュリズムに陥ることなく、迅速かつ英断をもって、 重要課題の解決に向けた改革を速やかに実行して頂くようお願い申し上げたい。

 

  1. 震災復興の加速と防災対策
    東日本大震災から2年4ヶ月が過ぎたが、現在も約30万人の方々が避難生活を余儀なくされている。被災地の声を十分に聞いた上で、復興庁を中心に、真に意味のある復興支援をこれまで以上のスピード感を持って進める必要がある。また、誤った情報に基づく被災地に対する風評被害や人々の記憶からの風化という2つの“風”に対し、政府は総力を挙げてそれらの防止に取り組んで頂きたい。
    原発事故に対しては、徹底した除染対策を早急に実施するとともに、汚染地域からの避難者に対する被害補償金の早期対応や雇用確保などの生活再建支援を加速すべきである。
    また、復興予算が被災地の再生以外に使われる「流用問題」については、復興増税を負担している国民に対する信頼回復のためにも、速やかにチェック体制を見直すべきである。
    一方、首都圏直下地震や南海トラフ地震に備え、選定基準・優先順位を明確化した上で、防災・減災対策を推進するとともに、緊急事態体制の整備や危機管理庁(仮称)の設置など、強固な国家危機管理体制を構築することが急務である。
    さらに、昨年末に発生した中央高速道トンネル事故に代表されるように、道路、橋等の劣化が進んでいると言われており、政府は新規公共投資より、メンテナンス、更新投資に力を入れて国民の生命・財産と国のインフラを守って頂きたい。

  2. 政治と統治機構の改革
    1. 地域主権改革
      国による地域主権改革は遅々として進んでいない。グローバル化は国家間の競争以上に都市間の競争(大阪と上海、大阪とシンガポール、東京とニューヨークのように)を激化させており、中央集権による画一的な政策には限界がある。各地域がそれぞれの特色を活かし、独自の施策により、地域の多様化にスピーディーに対応する「地域主権型道州制」を速やかに導入し、国の統治機構のあり方を抜本的に改革して頂きたい。
      そのためにも、まずは道州制推進基本法を秋の国会で成立させ、推進のための国民会議を早期に設置すべきである。道州制実現には、憲法改正を伴う、大規模な改革が必要となる。安定政権への道筋がつき、腰を据えた取り組みができる環境となった今こそ、実現可能な体制になったものと大いに期待している。

    2. 行政改革
      2001年の中央省庁再編にはじまり、公務員の総人件費削減や独立行政法人の削減・統合、また大胆なコストカットの努力が行われたことは大いに評価できる。しかし、まだまだ縦割り行政の弊害が解消されたとは言い難い。「省益あって国益なし」と言われる省庁の縦割り組織を打破し、「役所の仕事」の質を変えなければならない。また何よりも、国家公務員や地方公務員に「やる気」を持たせ、「創造性」を発揮できる仕組みを導入すべきである。その為には、既に企業で行われている部署間を越えた「マトリクス型プロジェクト組織」や「タスクフォース型組織」に権限を移し、民間人をそのリーダーとして活用するポリティカルアポイントメントなどを積極的に導入すべきである。すなわち、規制改革をはじめ、きめ細かい行政は最終的には「やる気」の問題だからである。

    3. 一票の格差是正・議員定数削減
      先般の国会において、衆院小選挙区の定数を「0増5減」する新区割り法が成立したが、あくまでも当面の違憲状態が回避されたにすぎず、衆参両院の一票の格差と議員定数の抜本的な是正が必要である。議論の期限を設定し、超党派で早急に議論を開始すべきである。また、参議院は「良識の府」として、衆議院とは違った角度から民意を反映させる本来の役割を全うして頂きたい。
  3. 経済
    1. 成長戦略・規制改革
      加速度的に進む経済のグローバル化の中、民間の国際競争力を高めるためには、大胆な規制改革が必要不可欠である。しかし、既得権益からの根強い抵抗で、雇用、医療、介護、農業等積み残しとなった課題も多く、抜本的な見直しにいたっていない。今こそ、首相は強いリーダーシップで「異次元の規制改革」に踏み込んで頂きたい。そのためには、産業や技術開発のいわゆる「現場、現物、現実」の生の情報をしっかりと収集し、立案した政策を真に日本経済にとって有効なものに落としこまなければならない。そのためにも先ほど述べたような、省庁間を越えた「プロジェクト組織」「タスクフォース組織」を導入して、民間の知恵や努力を最大限に活かすことができる行政機構に改変してから、規制改革に取組むべきである。さらには、企業活力の原動力となる法人実効税率の大幅な引き下げ、大胆な設備投資減税・研究開発投資減税に関しても、秋の国会での成立を強く望む。
      また、首相もしばしば言及されているように、日本は古来、「とよ 葦原あしはらの 瑞穂みずほのくに 」と言われるがごとく、農業国であった。再び強い農業を取り戻し、国際競争力を強化するには、農業を国策と位置付け、成長産業として推進することが第一であろう。民間企業の農業参入や大規模農業への転換を図るために、抜本的な規制改革を断行すべきである。
      一方、「日本は貿易立国である」ことを明確に意志表示し、器用さ、細部に手を抜かない、チームワークが良いといった日本人の美質を生かせるもの造り産業、つまり重工業、電機・電子、自動車、精密機械、化学、医薬などの輸出振興にも全力を傾注すべきである。ソフト産業やサービス産業だけでは、本当に日本が国際競争力に打ち勝つことは難しい。「もの造り」は決して過去のガラパゴス産業ではない。「もの造り」の再生こそ、日本の未来を切り拓く要になると思われる。なぜなら、これらの産業は決してデジタル化されない、アナログなノウハウのかたまりだからである。
      また、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定においては、他国の後塵を拝すことのないよう、最善を尽くして頂くようお願いしたい。

    2. 円高・デフレ対策
      首相と日銀総裁が連携し、マネタリーベース140兆円を270兆円に増やす「異次元の金融緩和」を打ち出し、株価を上げ、円高を是正し、明確なインフレターゲットを導入したこと、すなわちアベノミクスの成功を大いに評価したい。引き続き、政府は日銀と連動し、為替や金利など市場の動きに注視して、企業が活躍しやすい環境整備を継続して進めるとともに、金融緩和の出口戦略についても機動的に対応できるよう、議論をすべきである。
      また、中小企業においては、①多くの原材料費を輸入に頼っており、円安は収益を圧迫、また、②消費税の増税、③電力料金値上げなどの影響がより深刻である。消費増税転嫁法案の確実な運用をはじめ、中小企業に対し、継続的な支援策をお願いする次第である。

    3. 財政再建
      財政再建を達成するためには、経済成長による税収増・歳出の抑制が必要不可欠である。特に、急速に少子高齢化が進むわが国において、社会保障制度改革は、これ以上の先送りが許されない課題であり、来月にも示される社会保障制度改革国民会議の方針には、次世代を見据えた持続可能な社会保障制度への改革の全体像と具体的な施策を国民に示すことが必要である。まずは、公的年金の受給開始年齢の引き上げと70~74歳の医療費の窓口負担を本来の水準である2割に早急に引き上げるべきである。
      一方、今回の消費増税が実施されたとしても、それは財政再建に向けた第一歩に過ぎず、決してわが国の財政問題が解決したことにはならない。来月策定される中期財政計画には、財政健全化に向けた具体的な工程とPDCAサイクル(Plan Do Check Action)が確実に回るような仕組みづくりをお願い申し上げたい。
      国家財政の中核に切り込んだ財政再建策を国民にわかりやすく説明し、国際社会の信任を得て頂きたい。

    4. 特区
      6月に発表された安倍政権の成長戦略では、首相の主導による「国家戦略特区」の創設が明記された。地域の声をよく聞いた上で、早急に詳細を決定し、世界と競争できる大胆な特区制度の創設を求める。特に、関西・大阪圏は、化学、エレクトロニクス、バッテリー、半導体、機械、医療、環境、エネルギー分野等、先端産業の集積地であり、京都大学、大阪大学、神戸大学をはじめ、産学の高いポテンシャルがある。また加えて新しいことへのチャレンジやおもてなしの気質を備え、「食の関西」としての伝統がある。さらに関西、京都・奈良・大阪は日本の1500年に及ぶ歴史文化の宝庫であり、グローバルな観光資源の宝庫である。このように関西は、特区制度を最も活用できる素地があると自負している。日本経済の発展、活性化の起爆剤と成りうる関西の統合型リゾート(KIR)実現に向け、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律を一刻も早く成立させて、「関西アジアゲートウェイ」として、21世紀の発展の礎を築く新たなスタートの背を押して頂くことをお願い申し上げる。

    5. エネルギー政策
      産業競争力や国民生活の根幹に関わるエネルギーについては、すみやかに国益にかなう最善の道を国政の場で追求して頂きたい。「エネルギー基本計画」の策定にあたっては、国内外の知見を結集し、原子力、火力、再生可能エネルギーなどのエネルギーベストミックスを、安定政権でこそ成しうる中長期の骨太の方針として国内外に示して頂きたい。
      原子力規制委員会による新安全基準が施行されたが、何よりスピード感を持って審査にあたって頂きたい。さらに、科学的知見に基づいた十分な安全性の確認は勿論のこと、原発の地元住民の理解を得るというステップを十分に踏むことが必要である。その上で、安定・安価な電力供給に支障がでることのないようにして頂きたい。また、福島第一原発の廃炉に関しては、政府が最後まで責任を持って、着実に進めていくべきである。
      一方、持続可能な地球環境を実現するために、再生可能エネルギーや省エネ設備の開発研究に対しては、日本が世界に誇る卓越した技術力を活用すべく、国家の総力を挙げて取り組むべき最大の課題の一つと思われる。

  4. 外交・安全保障
    政治・経済・軍事とあらゆる方面で存在感を増している中国との関係を中長期的にどう構築し、東アジア全体の安定を目指していくかが、わが国外交のテーマである。
    日米同盟を基軸とした安全保障体制の再構築を進め、またその観点からも集団的自衛権行使、武器輸出三原則のさらなる弾力的な運用の実行をお願いしたい。首相も指示をされているが、わが国においては「自分の国は自分で守る」という意識改革とともに、「国家安全保障会議(日本版NSC)」など、外交防衛を一括し、実効性をあげる組織を立ち上げ、安全保障に対する基盤を強化する必要がある。
    また、北東アジア、東南アジア諸国と中長期的に安定した関係を築くためには、様々な人的交流、知的交流、文化交流を実施し、互恵的な関係を深めていくことが必要である。首相が参議院選挙に勝った今こそ、一刻も早く習近平主席、朴槿恵大統領との首脳会談を実現すべきである。

  5. 憲法改正
    憲法改正にあたっては、改正の目的・本質について論点を明確にし、改正手続きも含めて、広く議論を重ねるとともに、国民はもちろんのこと、国際社会に対しても、誤解を招かぬよう、正確な説明能力・情報発信力が求められる。
    日本の戦後復興を支えてきた日本国憲法の平和主義、国民主権、基本的人権の尊重は世界に誇るべき平和憲法である。その現憲法の精神は、堅持すべきであることは、言うまでもない。
    しかし、戦後70年近く経ち、様々な問題や矛盾があらわになっていることも事実である。自衛隊保持の明文化、道州制導入に関しては早急に改正に向けた取り組みを進めるべきである。また、天皇制のあり方や日本文化の継承・発展などあらゆる分野で、21世紀の日本のあり方を示し、グローバル化時代にあった日本国憲法とはなにか、広範囲な国民的議論を巻き起こし、首相は憲法改正の先鞭をつけて頂きたい。

以上