提言・アピール

琵琶湖・淀川流域の「水」に関する緊急提言

2012.01.23update

平成24年1月23日
社団法人関西経済同友会
社団法人京都経済同友会
社団法人神戸経済同友会
滋賀経済同友会

琵琶湖・淀川流域は、日本を代表する大流域で、その水利用者は、流域を越えて1,700万人以上に及び、社会的・経済的・文化的にまとまりのある圏域、「琵琶湖・淀川流域圏」を形づくり、関西の産業や暮らしを支えている。したがって、この流域の水資源に、防災面や水質保全等環境面において問題が生ずると、関西全体の生活面や経済面に多大なる影響を及ぼす危険があり、その管理については、琵琶湖・淀川流域圏全体で行うことが望ましい。

また、この流域圏における最大の水源であり1,400万人が飲料水として利用する琵琶湖は、約400万年の歴史を有し、古代湖の一つに数えられている。60種を超える固有種と1,000種以上の動植物が生息・生育するこの古代湖琵琶湖の生態系保全については、広く流域圏全体に恵みをもたらすものとして、水質の保全とともに、取り組む必要がある。

これらの状況を踏まえると、治山・治水・利水・環境の総合的な観点から、琵琶湖・淀川流域圏全体の管理・運営に当る必要があり、その担い手として、関西広域連合(以下広域連合)が相応しく、広域連合は流域の主導的・総合的な管理・運営の体制・仕組を早急に構築すべきである。これらの観点から、現在、広域連合が策定中の「関西防災・減災プラン」の中に、以下の3点について織り込むことを提言する。

また、本提言は、現在、広域連合が国に要望している、国土交通省近畿地方整備局の事務・権限の「丸ごと」移管を前提としており、広域連合は政府の地域主権戦略会議における「アクション・プラン~出先機関の原則廃止に向けて~」の閣議決定どおり、平成26年度中に国から権限が移譲されるよう、引き続きその実現を一段と強く要望すべきである。なお、奈良県の広域連合への参画を引き続き働きかけてほしい。

  1. 自然災害(水害)に対する実効ある防災対策の策定
    広域連合は、瀬田川洗堰はじめ流域の堰やダムの管理・運用も含め、国や関係機関との連携は勿論、流域圏内の自治体のニーズも踏まえながら、主導的・総合的に管理・運営を行える体制・仕組を早急に構築すべきである。
    1. 「防災計画」と「総合プラン」の策定
      広域連合は、琵琶湖・淀川流域での洪水・氾濫や、渇水、あるいは大阪湾での津波・高潮等のあらゆる水害に対し、流域圏全体で最小限の被害に止めるため、リスクを分担する「防災計画」を、流域周辺地域のまちづくりと一体化し、策定すべきである。加えて、予防保全の観点からも流域全体の治山・治水・利水および環境に係る「総合プラン」を策定すべきである。
    2. 国、自治体との役割分担の明確化
      「防災計画」や「総合プラン」の策定に当たっては、広域連合は、災害時等における府県や市町村との役割分担を明確にした上で策定すべきである。また、国との関係においては、内閣府・国土交通省・農林水産省など府省間の権限が複雑に絡むことにより対応が滞る懸念がある事項については、広域連合が主導的、スピーディに対応できるよう、役割分担を国と調整すべきである。国には、東日本大震災で経験した多重災害を想定した高度な防災・減災計画を策定し、各地域のガイドラインを示すよう要請し、広域連合はその実行計画を織り込むべきである。
    3. 「関西広域災害対策(支援)本部」の迅速な対応
      広域連合は、大規模な災害が発生した時に設置を計画している「関西広域災害対策(支援)本部」について、災害の発生が予測される時点で、的確かつ最新の情報と、適切な判断により即座に動き、防災に関する指示命令が府県ならびに関係市町村等に対して、直接発令される体制を構築するとともに、直接の発令に必要な、地方自治法をはじめとする関係法令の改正等を国に働きかけるべきである。

  2. 有害物質等による水道水汚染への対応
    地震・津波、あるいは今般の大震災を機に浮上した原発事故やテロなどの不測の事態によって、万が一にも、毒薬・劇薬・放射性物質等の有害物質が琵琶湖や流域河川に流入してしまった場合に、「水」による琵琶湖・淀川流域圏全体の社会経済活動の停滞を避け、水道水に対する地域住民の安心と安全に資するために、広域連合は以下の対策を早急に講ずるべきである。
    1. 汚染事故発生時に適切な指示が出せる組織・体制の構築
      広域連合は、有害物質による水質汚染事故発生の際には、琵琶湖・淀川流域圏はじめ管轄地域内の汚染状況等について、国や自治体、水道事業者等とも連携して、正確な情報を一元的に収集・解析し、かつ適切に発信・開示・指示が出せるよう、組織・体制を構築すべきである。
      また、放射性物質等の拡散については、その状況を的確かつ迅速に把握するため、広域連合はSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)等、国や自治体等が収集したデータも含め、適切に開示する体制を構築すべきである。
      加えて、広域連合は、琵琶湖・淀川流域圏の有害物質の拡散予測のシミュレーションが行えるような広範な連続した気象データ、及び汚染された物や生き物の処分方法・方策のデータ等、必要となる調査・実験データの収集を行い一本化するとともに、その適正な管理・運営が行える組織・体制を構築すべきである。
    2. 汚染事故発生時の生活用水等、水資源の確保
      広域連合は、琵琶湖・淀川流域圏の水道水が有害物質により、汚染された場合にそなえ、まずは、水質汚染の規模・範囲等を的確・迅速に把握し、水道水源が利用できない地域と、その期間およびその水量を割り出し、即座に適切な対応ができるような体制を整えるべきである。また、琵琶湖・淀川流域内だけでは必要な水量を賄いきれない場合を想定し、他の水源(代替水源)からの調達の手立てもあらかじめ構築すべきである。そのためには、琵琶湖・淀川水系の水道事業の一体化を実現すべきである。
  3. 環境保全対策の策定
    琵琶湖・淀川流域は、水質や生態系でも一体的であり、渇水時や洪水発生時における琵琶湖の水位操作によっては、琵琶湖の生態系に影響を及ぼす等、防災と環境保全は密接に関連している。
    ついては、広域連合は、防災に当たり、環境保全対策も踏まえた総合的な体制を構築すべきである。
    1. 琵琶湖の水質保全と生態系の維持向上
      淀川の流量の半分以上を占め、様々な恵みを生み出している琵琶湖の役割は大きく、その水質保全と生態系の維持・向上は流域圏全域における重要な課題である。広域連合は、水資源の涵養等、森林からつながる琵琶湖の集水域の管理などを含めた総合的な対応を、林野庁等とも連携をしながら取り組むべきである。
    2. 広域連合の広域防災局と広域環境保全局等の組織の連携・充実
      琵琶湖・淀川流域の一体運用に当たっては、広域連合内において、相互に関連する広域防災局と広域環境保全局等、組織としての連携が不可欠である。広域連合は、過去の災害や環境保全、水質保全に関するデータやノウハウを関係機関とも共有するとともに、一元化された的確かつ最新の情報により適切な判断ができるよう、組織・体制を構築すべきである。

以上