提言・アピール

野田新政権に望む

2011.09.02update

平成 23 年 9 月 2 日
社団法人 関西経済同友会
代表幹事 大竹 伸一
代表幹事 大林 剛郎

本日、野田新政権が発足した。国内外に山積する重要課題を置き去りにしたまま迷走を続けた菅内閣の後継内閣として、その責任は極めて重大である。野田新首相以下、各閣僚はこの重大な時期に国政を担うことを肝に銘じ、「もう後はない」という強い覚悟をもって、挙党一致態勢のもと、国難に正面から向き合っていただきたい。

野田新首相には、強いリーダーシップを発揮し、国家ビジョンを明確に示すとともに、国民が安心・納得のできる政策を着実に実行し、政権担当能力を発揮していただきたい。関西経済同友会では、以下のとおり現下の重要課題について、緊急アピールをとりまとめた。新政権の断固とした政策の実行を強く望むものである。

  1. 震災復旧・復興
    東日本大震災から約6ヶ月が経過しようとしているが、震災からの復旧・復興は遅々として進んでいない。新政権は、国民特に、被災地住民の信頼を取り戻すべく、まず何よりも早期の復旧・復興に向けて全力で取り組む必要がある。
    被災地の復興に向けては、現地の声を新しい街づくりや経済活動の再生に反映できる仕組みを構築する必要がある。今後設置される予定の復興庁については、複数の府省に跨る権限と予算を集中させ、復興施策の企画立案と事業実施を一元的に担う機関として明確に位置付けなければならない。加えて、被災地の正確な状況把握と地元自治体との密接な連携を可能にするためにも、復興庁を被災地である東北地方に設置し、被災地が自ら復興に取り組める体制とすべきである。
    また、新政権は、こうした「地域のことは地域が決める」仕組みの確立が、我が国が目指すべき地域主権型道州制への試金石ともなる重要な取り組みであることを認識しなければならない。
    なお、復興財源の確保にあたっては、不要不急の政策見直しによる財源の捻出に加え、国民全体で広く負担を分かち合うという共助の精神の下、時限立法による「復興支援税(仮称)」の創設を求める。その徴税方法としては、一定期間、消費税に上乗せすることが適当であるが、被災地域住民の負担軽減措置を講ずるべきである。

  2. 経済
    1. 円高対策
      昨年来の急激な円高進行に対して、各企業は必死に対応してきたが、現下の状況は、もはや限界点を超えており、このままでは、輸出産業に深刻なダメージを与えるだけでなく、更なる産業空洞化の加速が懸念される。
      新政権においては、主要各国との協調による適時・適切な市場介入はもとより、市場が即座に反応できるような、よりインパクトのある対策を行う必要がある。また、円高による影響が深刻な中小企業に対しては、資金繰り支援や税制優遇等の十分な支援措置を行うべきである。あわせて、政府系ファンドの創設による海外直接投資の促進や資源権益確保など、円高のメリットを活用する方策も実施していただきたい。これらを実現する上で、外貨準備高についても積極的に活用すべきである。
    2. 成長戦略
      我が国が真摯に反省すべきは、GDPが世界第3位に転落したことがほとんど論じられず特に反応すら示していないことである。そこには我が国が世界経済を牽引しようという気概が全く感じられない。実際、昨年策定した新成長戦略は、ほとんど成果を生み出せていない。
      新政権においては、成長基盤を整備し民間活力を発揮させるためにも、見直すべき項目については早急に見直し、早期に3%超の名目成長率を実現させるべく、着実に新成長戦略を実行すべきである。
      具体的には、世界規模で地域間・都市間競争が激しさを増す中、総合特区を早期に適用することにより、地域の強み・特色を活かした地域ごとの産業競争力を高めていくことが肝要である。加えて、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定をはじめとする自由貿易協定・経済連携協定の早期実現、法人実効税率の引き下げおよび研究開発投資等への税制優遇措置など、多重苦に直面する企業がその活力・国際競争力を最大限発揮するための環境づくりに早急に取り組むべきである。
      さらに、震災によってペースダウンしたインフラ輸出や海外人材受け入れを積極的に推進し、我が国が世界に貢献する国であることを示すべきである。

  3. 財政再建
    我が国の財政は実質的に破綻しており、財政再建は喫緊の課題である。まず、政策の優先順位を再考し、不要不急の公共投資の抑制や特別会計、独立行政法人などの無駄の洗い出しを行い、歳出削減の徹底を図るべきである。また、財政再建における最重要課題である税と社会保障の一体改革については、更なる社会保障支出の抑制や消費税増税など、国民の負担増となる改革に対し、先送りすることなく真正面に向き合い、国民に十分に説明を果たした上で、速やかに実行しなければならない。
    なお、財政再建の道筋を確実なものとするためには、国債発行に歯止めをかける必要がある。例えば、新規国債発行枠の上限設定や発行残高削減目標の法制化等も検討すべきである。

  4. 電力不足問題およびエネルギー政策
    電力の安定供給は、国民生活や社会・経済活動にとって、極めて重要な課題であるが、我が国の現下の電力需給状況を踏まえると、当面、原子力発電に頼らざるを得ない。新政権は、原子力政策に関するゆるぎない方針を即座に示すとともに、できるだけ早期に国民や立地自治体の理解合意を得て、原子力発電所の安全安定運転を再開し、電力の安定供給に努めるべきである。また、そもそも我が国のエネルギー自給率は極めて低い状況にある。新政権は20~30年先を見据えた中・長期のエネルギー政策を明示した上で、再生可能エネルギーを中心とした新たなエネルギーの開発と実用化に向けた取り組みに直ちに着手すべきである。

  5. 地域主権と機能分散の実現
    これまで道州制への移行と地域主権型社会の実現に向け、長年に亘り様々な議論が繰り広げられてきたが、ほとんど前進していない。民主党は、地域主権の実現を一丁目一番地に掲げていたが、菅政権では進展するどころか後退した印象がある。国内外におけるニーズや価値観がますます多様化する中、従来の国主導による画一的な政策展開では、我が国が持続的成長を成し遂げていくことはもはや不可能であり、このままでは、我が国の総合力は低下の一途を辿ることになる。
    新政権には、権限・財源を大胆に地域に移譲し、地域が独自の「地域力」を発揮し、自らが産業振興策等を展開しうる仕組み作りに取り組んでいただきたい。
    また、はからずも東日本大震災によって、一極集中のリスクが露呈し、危機管理体制や首都機能のあり方などが問われることとなった。政治・経済などの中枢機能が一極に集中すれば、有事の際、全ての機能が停止し、国内外に甚大な影響と混乱をもたらすことになる。今後は、東日本大震災の教訓を踏まえ、早期に機能分散を図るべきである。

  6. 外交・安全保障
    繰り返される政治の迷走によって世界から信用を失墜してきた我が国は、既に周辺諸国から軽んじられる存在となり、発言力も影響力も低下し続けている。中国の海軍力の急速な増強と近隣海域への覇権的な進出、ロシアの北方領土の実効支配の強化、韓国との竹島領有権問題など、我が国が周辺諸国から権益・領土問題について、守勢に立たされているのは、それが顕著に現れているものと言える。加えて、北朝鮮の核問題や不安定な政情などは、安全保障上の大きな脅威となっている。
    国益を損なわないためには、的確に周辺諸国の変化などに対応していくとともに、政府・与党のみならず、野党も含め、国家として外交の基軸を定め、たとえ、政権が変わっても外交の一貫性を堅持することが必要不可欠である。
    安全保障のあるべき姿は「自分の国は自分で守る」ということである。新政権はその自覚と信念を持ち、日米同盟を基軸とした、一貫性ある安全保障政策を継続的に展開すべきである。

以上