提言・アピール

食料安全保障の確立に向けて

2008.04.01update

平成20年4月
社団法人 関西経済同友会

食料委員会

わが国の農業は崩壊の危機に直面している。
地方が疲弊する中で、農業の担い手の高齢化が進み、耕作放棄地は増加の一途を辿っている。また、食料自給率(カロリーベース)はついに40%を切り、39%と主要先進国の中でも最も低いレベルに落ち込んだまま回復の兆しすら見えない。これまでの農業政策は、農業の競争力強化につながらない結果に終わっている。その上、新興国の食料需要の急増、食料のバイオエタノールへの転用等により世界の食料需給は不透明感を増し、食料価格の高騰のみならず、食料の確保自体が危ぶまれる状況になっている。また、食品偽装や、輸入加工食品の安全性の問題等、食に関する暗いニュースが後を絶たない中、「食の安全・安心」に対する国民の不安が増している。かかる世界の食料事情の急激な変化に、早急に対策が講じられなければならない。食料自給率の向上は、世界的な紛争や地球温暖化の悪影響などの国家的な緊急事態における国民生活の自衛や環境保全等の機能を持つ農業の多面性の観点からも重要であり、コメを中心とした自給率の向上に努めるべきである。

一方、わが国のWTO、EPA締結の交渉は、世界的な貿易自由化が進む中で、農業問題が支障となり、交渉が進みにくい、或いは遅々として進まない状況が長く続いており、わが国は交渉相手国の信用を失うという危険にさらされている。主要先進国としての地位を維持するためにも、わが国は、WTO、EPA締結に向けて積極的な姿勢で臨み、食料安全保障を確立させなければならない。そのためには、従来から課題とされてきた農業構造改革を実現し、国際競争力を持った「攻めの農業」「強く自立した農業」を構築することが喫緊の課題である。

わが国は、「攻めの農業」「強く自立した農業」により自給率を向上させる一方で、WTO、EPAを通じて食料安全保障を十分なものとする必要がある。すなわち、国際競争力を持った健全な国内農業の確立とWTO、EPAの締結は表裏一体であり、同時並行して推進されるべきである。さもなければ、国内農業の崩壊による食料自給率の更なる低下に加えて、わが国産業全体の競争力低下を招く可能性があり、わが国は発展するどころか負の悪循環に陥りかねない。

関西経済同友会の食料委員会は、このような基本認識に立ち、農業の最前線の関係者からのヒアリングや農業の行方を憂慮する有識者との意見交換を行い、関西地域における草の根農業改革の実践事例を調査した。わが国の食料安全保障の確立に向けて、可能な限り具体的な取り組みを提唱する。